市民参加劇「超体験版 芝居をつくりましょ♪」


市民参加型事業の演劇制作では「体験版 芝居で遊びましょ♪」シリーズが開催されています。このシリーズは誰でもが気軽に参加できる芝居体験なのですが、もうちょっと頑張って芝居作りに関わってみたいと言う一部の参加者の声を受けて立ち上げたのがこのシリーズです。
舞台制作は実は簡単なものではありません。プロが商売としてやっていてすら、かなりの確率で失敗します。面白くない芝居が蔓延しているのは全国津々浦々お客様のご承知のとおりです。それを素人が経験してみようというのですから、かなりの覚悟が前提です。

初回は「花の嵐団九郎一座」の打ち上げの席で強烈な地雷を踏んでしまった参加者が発端でした。同席していたイナダさんの目がキラ〜〜〜ンと光ったのが伝わらなかったようで、酔った勢いで舞台制作の話が進められました。
いつもならば酔った勢いで、醒めたときには尻つぼみになって行くものなのですが、今回は違いました。どんどん具体化していく企画、プロデューサーの脅し、演出家の決断。
こんなきっかけで事業が立ち上がってしまうこともあるんだなぁという一例です。

とは言うものの、担当者としてはこの企画がいつかは立ち上がるだろうと思っていたのも事実です。せっかく持ち上がった話を立ち消えにすることはできません。誰でもお気軽に参加はできませんよという覚悟を持った7名の精鋭たちが初回の公演にキャストとしての名乗りを上げました。

このシリーズは毎年開催することはできないものですが、承知の上で地雷を踏む参加者がいれば、第2回目も立ち上がるかもしれません。
そんな意味では重要な事業といえるでしょう。



 2005年度 「なにもしない冬」   作・土田英生    演出・イナダ



稽古



衣装・美術製作



ロビー装飾


舞台美術



本番




 2005年度 「なにもしない冬」

         
 作・土田英生    演出・イナダ

公演日    2006年3月19日  15:00開演
入場者数  239名
参加者数  39名
補助     財団法人地域創造(公立文化施設活性化支援推進事業)

瓢箪から駒。そんな感じでした。12月から3月までの4ヶ月間に2本の芝居を制作とするというのは無茶な話です。キャストもスタッフもかぶってます。1本目の本番日の翌日から2本目の稽古が始まるというスケジュール。それもまったく異なる内容の芝居。


== スケジュール ==
2005年3月20日 「花の嵐団九郎一座」の打ち上げの席で、本格的な芝居を
     やってみたいなぁと酔っ払った参加者が叫んだ。その言葉は地
     雷だよなぁと片隅で聞いていたら、イナダさんの耳に届いたらし
     い。「いいねぇ、リベンジをやってみるかい」。そんなイナダ
     さんの一言に乗ってしまった担当者も悪い。「やりましょ♪」と
     二つ返事。詳細は後日ということで
実施することだけは決定。
     重たい体重、軽いノリ。
2005年9月23日 夏ごろから本選びを進めてきたのだが、なかなかしっくり
     とする作品に出会わない。既成台本の中から選ぶということは、
     イナダさんにとっても負荷が大きい。それを承知で引き受けて
     くれたからには腰を据えて頑張るしかないなぁ。で、この段階
     で「なにもしない冬」に決定。キャストは7名限定。応募者が多
     ければオーディション。
10月13日 募集チラシを撒き始める。どれほどの応募があるかは見当もつか
     ない。
10月15日 募集締切り。ジャスト7名が応募してきた。ようこそ、地獄の一
     丁目へ^^
11月16日 ワークシッョプ開催。とりあえずキャストには台本を渡してラン
     ダムに本読み。スタッフにはそれを見てもらった。
12月7日  本読み。キャストを決定。年内の稽古はあと2回だけ。年明けに
     は「瞼の母」の稽古が始まり、そちらへも参加するキャストが
     ほとんどのためにしばらくは稽古は休まざるを得ない。稽古再
     開は2月6日以降。それまでにセリフを入れておくようにという
     演出家のお言葉。無理だと思うけどねぇ。同時にスタッフとは
     衣装、美術についての打ち合わせ。こっちも進めておかないと
     ね。
1月17日  宣伝素材用のスチール撮影。「瞼の母」の稽古の進行を盗みな
     がら舞台の片隅でパシャパシャ。キャストは黒いシャツ、ちょ
     っとすました顔にしましょ。ポスターの素材はピエロ。中学生
     のK太君に出演を依頼。衣装とメイクをしたら、誰が見たって
     わかんないよ。
1月18日  オープニングにダンスを使うことを決定。振り付けをTAKUICHORO
     さんにお願いした。
1月24日  「瞼の母」の稽古の後で、キャストはダンスの振り付け。なか
     なか上手く覚えられないのは当然だなぁ。
2月6日  今日から本格的な稽古に突入。振り付けと演技の稽古が平行して
     いく。ダンスを覚えられないことに一部のキャストがパニックに
     なっていく。こんなはずじゃなかった・・・。来週からはほぼ
     毎日の稽古。
2月15日  舞台の仮組み。小道具、衣装の打ち合わせ。ここにきてようやく
     7名のキャストが揃った。
2月17日  舞台美術のプラン確定。道具方がパースを元に実寸を出してい
     く。2間高のパネルがアクティングエリアをぐるっと囲むよう
     になる。正面には入り口とレール。サーカス小屋のテントの中
     という設定。シンプルだけど、出来上がりはきれいだぞ、きっ
     と。
2月18日  稽古をスタッフが見に来る。動きなどを確認して衣装の手直し。
     制作担当が宣伝素材についての打ち合わせ。キャストの一人が
     体調不良で稽古に出てこられなくなった。6人での稽古。
2月25日  稽古は中休みになったが、キャストが自主的に稽古。スタッフ
     側は順調に仕事が進む。ピエロの衣装は既製品で仕えるものが
     ないために作ることに。早替えもあるので、脱ぎやすいように
     作っていく。
2月28日  どうしてもキャストの一人の体調が戻らない。欠けたままの稽
     古。オープニングダンスは6名で踊ることに変更。
3月6日  美術、衣装、小道具がほぼ完成の目処が付く。制作担当はロビ
     ーの飾りつけの話し合い。
3月9日  風邪で体調を崩していたキャストが何とか気力で回復。本調子
     ではないものの、稽古に出られないことが焦りに繋がる。
3月10日  スタッフの仕事もほぼ完成間近。通し稽古をスタッフが観てい
     る。キャストの緊張も次第に高まっていく。稽古の隙間に照明
     の仕込み。美術の建て込み。小道具を搬入し、衣装合わせまで。
     稽古のない時間にキャストの自主稽古。夜中に照明のキューを
     作る。
3月13日  大道具が本番中に動かすトロッコのタイミングをキャストに合
     わせて稽古。ゲネプロの打ち合わせ。
3月16日  ロビーで客入れのときにスタッフもピエロの衣装を着ることに
     決定。大きな風船を幾つも浮かばせる。
3月18日  ゲネプロ。ロビー飾りつけ。
3月19日  本番。暗転からオープニングダンスへ。緊張しているのがわか
     る。キャストが袖にはけて明転。最初の台詞が入ったところで
     芝居のテンポが決まる。滑り出しは順調。短い時間でここまで
     辿り着いたことを思うと、感無量。だけど4ヶ月で2本の作品作
     りは無謀としか言いようがない。二度とこんなスケジュールで
     ははしないと客席に座りながら誓う・・・。


演出の言葉       イナダ
 まさか今年もこの朝日で芝居を作るとは思いもしなかった。昨年の「花の嵐団九郎一座」が思いのほか楽しかった。参加した皆さんも素敵だった。あまり楽しいので打ち上げの席で「できればまた一緒にやりたいです」と言ってしまった。そしてまさか本当に今年もやるなんて・・・。そんなつもりはなかったんです。はっきり言って漢さんに騙されたんです(笑)。漢さんは「イナダさんがやりたいというから呼んだ」と言ってます。まぁ!どっちでもいいんですが、またお世話になっちゃったんだから。
 今年は昨年と違う形にしたいと私が言い出しました。漢さんも「遊びましょ♪」じゃなく少しハードルを上げたものにしたいと言ってくださいました。そういうこともあって、全員参加型の芝居ではなく少数の役者で見せる芝居にしました。昨年は脚本も私が書いたのですが、今年は既成の脚本にしました。そして本当にハードルを上げた芝居作りが始まってしまったのです。
 メンバーは思ったよりすんなり決まりました。7人しか出ない芝居にちょうど7人「やりたい!」と言ってくれたので。やる気だけ120%の役者たちと昨年から稽古を始めました。読み合わせ、そして台本のカット(そのままだと2時間かかってしまうので若干セリフをカットしました。)。そして今回はダンスも取り入れることに。今年に入ってからはダンスの稽古も始まりました。役者7人はすぐに”いっぱいいっぱい”になってしまいました。セリフも覚えないとダメだし、ダンスの振り付けも覚えないとダメだし。なによりもセリフの量の多さにアップアップ。稽古は順番にシーンごとに作っていくのですが、進むにつれ前のシーンを忘れていっちゃう。それでも頭の中にこれ以入んないくらい色々なことをつめみんで覚えました。いやはっきり言って大変でした。私も皆も。頑張りました。練習しました。酒呑みました。そしてアッという間に本番に。どうなるかは観てのお楽しみ?!


みんながいい顔に         西條 和則(あさひサンライズホール館長)
 先日の「体験版 芝居で遊びましょ♪「瞼の母」」の興奮冷めやらぬ翌日から、今回の芝居の稽古が本格的に始まりヵ月半。こんなに時間のない中で芝居を作り上げることができるのかと、ド素人の私は正直不安に思っていました。しかし、間に合いました。演出は昨年に続き今回が2回目のイナダさん。イナダさんの熱い想い、必死についてきたキャスト、スタッフの面々。いい芝居をつくろうと、一人ひとりの一生懸命さが強い信頼関係を築き、今日の日を迎えることができたのだと思います。まずは、今日までの皆さんの頑張りに拍手を送ります。
 さて、幕開きの前、今ごろ舞台裏では、キャストも、スタッフもすごい緊張感で心臓はバクバク、どうにも足の震えが止まらない者、今にも逃げ出したくなる者、このまま幕が開かなければいいのにと内心思っている者、台詞を忘れたら?途中で着ている衣装が落ちはしないか、セットが壊れたり、倒れたりしないかなど不安は尽きないのではないでしょうか。その心中察するに余りあるものがありますが、早く終わって楽になりたいと思っているのはみんなの共通した今の心境でしょう。
 一方、客席の皆さんと言えば、気楽な気持ちで幕が開くのを楽しみにしているのではないでしょうか。見せる者と観る者の違いと言えばそれまでですが、やはりそれまでです。そして芝居が終わって、双方の感動の仕方もやはり違いますよね。見せる者の感動は、やはり舞台に立つ者でなければわかりませんから。そんな感動を味わってみたいと思う方は、ぜひ次回は舞台の上に。一生に一度ぐらいどうですか? ひょっとしたら病み付きになるかもしれません。
 文化・芸術には、人を活かし、人をつなぎ、地域をつくる力があります。ひとりでも多くの方が、ぜひ感動できる時間をつくっていただくことを願っています。
 感動は心の栄養となり、心が豊かな人は、いい顔をしています。そして、生きるための大きな力ともなります。
 そろそろ幕が開きます。さあ、舞台も客席も一緒になって、この幸せな時間をともに楽しみましょう。少しでもみんなの心が豊かになり、すてきな顔になることを祈って・・・。





ワークショップ・トップへ
サイト・トップへ
inserted by FC2 system